ITAMINKIA

イタミンキアです。おうまさんが運営する実用イタリア語検定試験完全非対応のイタリアブログです。

イタリアのいじめ防止啓発動画が面白かった

イタリアのいじめ啓発動画が面白かったので紹介します。

Fondazione Milano (ミラノ財団 )が作成した動画のようです。

Creatività, talento, passione | Fondazione Milano

 

イタリア のいじめ防止啓発動画

以下の"Spot contro il Bullismo"という動画ですが、イタリア語がわからなくても問題ありません。ぜひみてみてください。

以下では、特に2:19~2:53の部分を取り上げてお話ししますので、時間が許さないようであればぜひそこだけでも。

www.youtube.com

 

動画概要(2:19~2:53)

舞台はサッカーの試合前。ある少年が必死にトイレの水道で額を洗っています。そこにチームメイトがやってきて、その少年を見て額を見せてみろ、となります。そしてそこに「ちんちん」の落書きがされていることに気づきます。

場面は変わり、試合開始直前のコート。(おそらく少年をいじめている)相手チームは談笑しています。そこに現れる少年。相手チームは彼が堂々と額の落書き(ちんちん)を見せながら笑っていることに気がつきます。その周りには彼のチームメイトが全員額に「ちんちん」を描いている姿で現れます。

そして、"I CAZZI DEGLI ALTRI SONO ANCHE CAZZI TUOI(他人が抱えている問題は自分の問題でもある)"、"FAI SQUADRA CONTRO IL BULLISMO(いじめにはチームで立ち向かえ)"とテロップが流れて終わりです。

 

動画解説

映像とことばのかけあい-「ちんちん」が意味するもの-

動画内で嫌が応にも目に入るのが額に描かれた「ちんちん」です。これは、もちろん「イジメ」の象徴的なエンブレムでもあるわけですが、この動画ではそれ以上の意味を持っています。

イタリア語では「ちんちん(まあ、つまりは陰茎)」のことを"cazzo"と言います。そして、この"cazzo"を用いた表現は多種多様に渡りますが、動画内で使われている表現は以下のようなものでした*1

 

"essere cazzi tuoi"

エッセレ カッツィ トゥオーイ

「お前の問題だ」

 

詳しくは説明しませんが、簡単にいうと"cazzi"というのが日本語で言うところの「抱えている問題」くらいにあたります。直訳して「お前のちんちんだ」とかそういうことではありません。

そして最後に出てくるフレーズは

 

"I cazzi degli altri sono anche tuoi"

イ カッツィ デッリ アルトリ ソーノ アンケ トゥオーイ

 

で、これも直訳すると、「他の人のちんちんはお前のちんちんだ」ということになりますが、実際にはそんなわけありませんから、動画内での意味は、「他の人の問題は自分の問題でもあるんだ」となります。まあ、「見て見ぬ振りをするな」という意味ですね。

ですからこの動画内では、「ちんちん」というイジメのエンブレムと、"cazzo"という言葉のもつ一種の曖昧性を利用しているわけです。なかなか面白い発想ですよね。

ちなみに、動画の切れ目切れ目ででてくる"bullismo"は「イジメ」という意味で、"mo"の部分を"no(だめ)"にかえて"bulllisNO"「イジメだめよ」という言葉遊びです。

 

イタリア社会が抱えているイジメ問題

このあたりの社会的問題は私の専門ではないので、あくまでも印象論ですが、イタリアは、日本以上に「グループ」というまとまりを大切にします*2。何をするにも4~10人のグループで決めます。遊びに行くのも、ご飯に行くのも、飲みに行くのも、とにかくなんでもです。よく言えば連帯感があるということですが、悪く言えば、何かを起こしてしまうと、些細なことでものけものにされるということでもあります。このあたりが動画内でも言われているのかなという気がしました。実際最後に出てくるフレーズは、

 

"Fai squadra contro il bullismo"

ファイ スクアードラ コントロ イル ブッリーズモ

「イジメにはチームで立ち向かえ」

 

です。私は、動画内でのサッカーの「チーム」というのがイタリアの「グループ文化」を象徴していると理解しました。 

仲良くしていたグループからある日急にのけものにされるという経験は、少なからずある程度の人が持っていると思います。そうした時に、ある種の「イジメ」に耐え、そのグループに所属し続けるのではなく、他のグループもあると割り切って切り捨てることも大事です。常日頃からいくつかの選択肢を持っておくのがいいかもしれませんね。

 

ということで、イタリアのイジメ防止啓発動画でした。

*1:ここでは便宜上"cazzo"と"cazzi"は同じものだと思って下さい。

*2:日本の方がイジメが少ないとか陰湿じゃないとかそういうことを言っているわけではありません。