1.はじめに
私は以前、「イタリア人は浮気性か」という論文記事を書きました*1。
拙論では、一人の友人を取り上げることで、「イタリア人は浮気性というより人たらし」であるということを証明しました。
これは、私が大好きなイタリア人が「浮気性なわけない!」という思いを前面に押し出したいがための論文記事でした。書いた当初は、イタリア人は「浮気性」ではない、という気持ちをより強く持っていたのですが、日々を過ごすにつれて、反例と思われるものが見つかってきました。
浮気がばれて平謝りするお馬さん↓*2。
ことの発端は、イタリア語には、「モテる」とか「浮気者」のような表現がたくさんあると聞いたことにあります*3。ことばと社会は、どこかのレベルではある程度関連しているものです。例えば、日本文化と魚は切っても切り離せないものですので、魚に関する用語が多くなります。
もしイタリア語に浮気関連の語彙が多いのが本当であれば、私の「イタリア人は浮気性ではない」という主張が揺らぎかねません。そこで、今回は、Treccani(トレッカーニ)という辞書を用いて、関連用語を調べ上げ、イタリア人と浮気性の関連について論ずることにします。
2.語彙収集:イタリア語の浮気関連の語彙
本節では具体的な語彙を収集します。
sciupafemmine(シュパフェンミネ)
sciupa(シュパ)は「押しつぶす」「すり減らす」という意味のsciupare(シュパーレ)という動詞からきています。femmine(フェンミネ)は「女性」です。ですから「女性をすり減らす人」=「浮気もの」「女たらし」「かっこいい男」という意味になるます。冗談っぽく使う時に使うそうです。響きがいいですね。
casanova(カサノヴァ)
casanova(カサノヴァ)はもともとジャコモ・カサノヴァというヴェネチアの作家のことです。カサノヴァは生涯で1000人以上と一夜を共にしたと言われており、その点が評価されて(?)、「浮気者」「女好き」を表す現代の語となりました。ただし彼は、女性に限らず男性とも一夜を共にしたようで、愛し愛されることに快楽を見出していたようです。ですから、もしあなたがカサノヴァと呼ばれているのであれば、あなたは相当なハードルを越えてきたのでしょう。誇っていいことです。
dongiovanni(ドンジョヴァンニ)
dongiovanni(ドンジョヴァンニ)はあるスペイン作家に捧げられたオペラの主人公で、老若、身分、容姿を問わずに、何千人と関係をもつ愛の伝道師です。ここから、ドンジョヴァンニは「浮気者」「女好き」を意味するようになりました。響きがかっこいいですよね。ドン・ジョヴァンニ!
もしあなたがドンジョバンニと呼ばれているのであれば、あなたは愛の伝道師です。誇ってください。
donnaiolo(ドンナイオーロ)
まずは、何も言わずにTreccaniとそのdonnaioloの項目と、その私の適当な訳をみてください。
donnaiòlo (letter. donnaiuòlo) s. m. [der. di donna]. – Chi per abitudine corteggia le donne ed è sempre in cerca di facili amori.
(適当な訳)
ドンナイオーロとは息をはくように女性を口説き、常に薄っぺらい愛を探す人のこと。
おお...もう...
もしあなたがドンナイオーロと呼ばれたことがあるのであれば、反省して下さい。
rubacuori(ルバクオーリ)
ruba(ルバ)は、「奪う」を意味するrubare(ルバーレ)からきています。cuori(クオーリ)は「心」を意味するcuore(クオーレ)の複数形です。ここからrubacuoreで「心を奪う人」=「モテるやつ」といった意味になります。大体冗談で使われることが多いみたいですね。
mandrillo(マンドリッロ)
mandrillo(マンドリッロ)はマンドリルというヒヒのことですが、これがなぜか「浮気者」を意味します。が、あまり使う人はいないみたいで、人によっては通じません。
farfallone(ファルファッローネ)
farfalla(ファルファッラ)は「ちょうちょ」という意味で、one(オーネ)はなにか別の言葉にくっついて「大きい」を意味するものです。ですので、farfalloneは「大きいちょうちょ」ということになります。要するにあっちいったりこっちいったりして女性を取っ替え引っ替えしている人のことを指します。
3.課題解決のステップ
以上、浮気関連の語彙を確認してきましたが、適当に探しただけでもこれだけ見つかりますので、きっとこれ以上あるでしょう。
仮に「ある事項に関する語彙が多いことがその社会の真理を示している」という仮定が正しければ、この調査は「イタリア人は浮気性である」ということを示すことになります。私は以前「イタリア人は浮気性ではない」と主張しましたから、これでは困ります。そこで、反論に転じたいと思います。
具体的に反論するためには以下の三つの可能性が考えられます。
①そもそも「語彙と社会には関連がある」という仮定が間違っているとする。したがって、語彙を調べることには何の意味もない。
②語彙をより慎重に精査し、語彙の本来の意味、使用範囲、使用頻度などを確認する。本来の意味が異なっていたり、使用範囲・使用頻度が明らかに低いものを除外することで、本当の浮気関連の語彙をあぶり出し、実はこの類の語彙が少ないことを示す。
③他言語と比較し、むしろ関連語彙が少ないことを示す。イタリア語だけ見ていると多く見えるが、実は別言語ではもっと見つかることを示し、相対的にイタリア人は浮気性でないことを示す。
4.課題:あきらめが肝心
前節で示した三つの反論の道筋ですが、端的にいって大変めんどくさいです。
ですので、正直もういいです。
「イタリア人は浮気性」でいいです。
もう、それでいきましょ。