つい1年前までは全くサイクルロードレースというものに興味がなかったのですが、ここ数ヶ月でどちゃくそにハマってしまいました。
「絶対自転車なんで見ない!絶対にだ!」と理由もなく意地を張っていたのですが、数年前からサイクルロードレースにハマっている大学時代からの友人に「Yo, 遠慮せずにハマっちゃいなYo!(原文ママ)」と言われて、なすがまま、なされるがままに過ごしていたらいつの間にかJsportsオンデマンド(サイクルロードレースがたくさん見られるサービス)に課金してました。
そこで今回は、にわかながらサイクルロードレースの魅力を書いていきたいと思います*1。
そもそもサイクルロードレースとは
サイクルロードレースを一言で言ってしまうと、自転車にまたがって、決められた距離をできるだけ早く走り抜ける競技、です。それだけです。ただ、1レースの距離が100kmとか200kmとか、そして場合によってはそれ以上でめちゃくちゃ長いです。平均時速40km以上で6時間くらい走り続けます(もちろんコースやレース展開によりますが)。
サイクルロードレースの種類
なんかいろいろあるみたいですが、一日一回走りきるだけのワンデーレースと数日から数週間に渡って行われるステージレースというものがメインどころです。ステージレースでは、それぞれのレースごとにステージ勝者がいて、ステージの最後には全てのステージの合計タイムが一番早かった人が総合優勝という扱いになります。
サイクルロードレースの魅力
さて、それではサイクルロードレースにはどんな魅力があるのか。ここから、にわかの私がにわか知識で語ります。にわか知識、確認ヨシ!
まずもってレースの迫力がすごい
サイクルロードレースファンの中には、レース中に映し出される景色を楽しんだり、プロ選手が使用している機材を楽しんだりする人もいるみたいですが、私はにわかですから、まずもってレースの迫力というものを推したいです。
プロ選手が凡人には決して出せないスピードでまとまりをなして走っていく様子はまずもって迫力がすごいです。時速60、70kmは当たり前のように出しますし、ダウンヒルでは時速100km近くになることもあります。一方で体を守るものはヘルメット以外ほとんどありません。ウェアは空気抵抗がいいピチピチのスキンスーツですので落車したら良くてひどい擦過傷です。プロ選手たちは、世が世なら確実に天下の豪傑として名をはせていたことでしょう。
お決まりの展開がある
自転車に少しでも乗った経験があると誰でもわかると思うのですが、自転車で走るとスピードが出るので空気抵抗がすごいんですよね。プロ選手ともなるととんでもないスピードで走っていますからその分の空気抵抗も尋常じゃないわけです。できれば空気抵抗を避けたいわけです。ではどうするか。他の人の後ろを走るのです。他の人の後ろを走ると、大体3割楽できると言われています。さらに、集団で走るともっともっと楽ができると言われています。したがって、プロたちもできるだけ集団で走ります。だって楽ですからね。楽ということは力を温存できるということです。
それでも最初から最後まで集団で走るということはありません。必ず逃げ集団と呼ばれる複数名の選手で形成される先行集団がレースの序盤にできます。逃げ集団は小さい集団ですからその分エネルギーを使ってしまうわけですが、逃げ集団ができないことはまずありません。ですから基本的には、逃げ集団を大集団(プロトンと呼ばれる)が追うというレース展開になります。で、一応のセオリーとしては大集団が逃げ集団に終盤で追いついてそこからワチャワチャの展開に突入します。
逃げ集団を追う大集団というレース展開にある背景
それではなぜこのような展開になるのでしょうか。理由はいろいろあるのですが、まず、サイクルロードレースを見る上でおさえておかなければならない事実があります。それは、サイクルロードレースは
①チームスポーツであり、
②スポンサーの力が絶大
である、ということです。
マラソンなどの競技に慣れている方はサイクルロードレースがチームスポーツであるということを意外に思われるかもしれません。実際に長距離長時間の耐久レースであるという点ではマラソンと似ているのですが、その内実は似て非なるものなのです。上でも述べたように、風の抵抗もあり、その他後述するもろもろの理由もありで、一人で走るのではなく数名(以上)で協力して走るということが大事になります。そして、チームの誰かが1位になればチームの勝利という了解があります。実際に、1位の選手がゴールしたあと、ぞろぞろとチームメイトが遅れながらゴールラインに戻ってくるわけですが、渾身のガッツポーズとともに戻ってくる選手も少なくありません。ちなみに、チームの人数はツール・ド・フランスで8名です。
もう一つの大事なポイントは、スポンサーです。それぞれのチーム予算のほぼ全てはスポンサーからの支援によって賄われています。サイクルロードレースはその性質上、観客からお金を取るということは実質不可能なわけで、スポンサーからの金銭的支援なしには競技を続けることは不可能です。自転車も一つ100万以上するわけですし。
さて、この二つを踏まえた上でもう一度「逃げ集団を大集団が追う」というレース展開について考えてみましょう。
まず、逃げ集団というのはレース中テレビで抜かれまくります。するとウェアのスポンサー名が映し出される時間が多いということになります。したがって、スポンサー露出度的には逃げ集団というのは美味しいのです。スポンサーのために走るということも選手たちの大事な役割です。特にレースに勝てそうな強いエースがいないチームがスポンサーのために逃げ集団にのります。
逃げ集団というのは基本大集団に終盤で吸収されるというのが一般的なわけですが、それでも「先行する」というのは勝利に向けて非常に重要なアドバンテージになります。もしかしたら集団で大落車が起きて追いつけない時間差がつくかもしれません。途中から大雨になって集団のペースが落ちるかもしれません。先を走るというのはトラブルを避けるということでもあるのです。ですからチームとしては(戦略によるところはあるものの)とりあえず一人は逃げ集団に乗せておきたい、となります。ちなみに、チームのエースは勝負どころでアタックをかける(スピードを上げてレースを先導する)ので、力を温存するために大集団に残りますので、それ以外の誰かが逃げ集団に入ります。逃げにのった一人が逃げ切って勝てればチームとしてはそれでいいわけですし、戦略の幅も広がります。例えばエースが勝負どころで一人飛び出して、それを前で待ち受けて風よけとペースメーカーをするという「前待ち作戦」というのがあります*2。
以上のことが、逃げ集団を大集団が追うという展開にある背景です。
お決まりの展開はあるんだけど...
お決まりの展開とはいっても、「誰が逃げ集団に入るか」というのは決まっていないわけです。つまり、逃げたい選手がたくさんいた場合、逃げが出来ないまま(逃げが決まらないまま)序盤から何十キロとレースがハイペースで進む場合があります。逃げとは簡単に決まるものではないのです*3。
まず、逃げに強い選手が入ってしまった場合、大集団はその選手の逃げを容認しません。つまり、チームの力で追いかけて逃げを吸収します。しかもそういう場合は大抵どのチームも逃したくないですから、利害関係が一致して複数のチームが協力して追いかけてきます。まず逃げられません。
それから、逃げ集団の人数が多すぎる場合も、大集団はその逃げを容認しない傾向にあります。逃げ集団が大きいと一人ひとりの労力が減って、その分逃げ切れる可能性が大きくなるわけですからね。一方で逃げ集団が大きくなることは利害関係がばらばらの選手が多くなり逃げ集団の意思統一ができなくなり逆に崩壊するということもあります。
よって、適度な人数の適度な実力の選手が揃ったときに逃げというのが生まれます。この逃げが出来るまでの展開がなかなか熱いんですよね。チームによっては人数をかけて逃げに送り込んだり、絶対に逃げたい選手が何度も何度もアタックをかけたり(スピードを上げたり)するのを見るのが熱いんです。逃げにのれるのかい、のれないのかい、というハラハラ感がたまりません。
選手ごとに色々特徴がある
以上のように、レースそのものの持つダイナミックな側面というのがサイクルロードレースの魅力の一つなわけですが、それをさらに魅力的にするのがそれぞれの選手の特徴です。
脚質
サイクルロードレースは純粋な体力勝負ではありません。それぞれの選手が得意とするものが違い、選手は自分の特徴を生かして戦います。例えるなら、同じレースに、短距離が得意な選手もいればマラソンが得意な選手もいる、そんなところです。そうした選手ごとの特徴を脚質といいます。脚質はおおまかに以下の6つに分けられています。
- スプリンター
- クライマー
- ルーラー
- パンチャー
- オールラウンダー
- TTスペシャリスト
ちなみに、それぞれが相補分布にあるわけでなく、二つ以上の特徴を持つという選手もいます。例えば、クライマーでありオールラウンダーである、といったようなものです。一見矛盾するようにも見えるのですが、明確な基準があるわけではないですから仕方ないですね。
まず、スプリンターというのはその名のごとく、短距離が得意な脚質です。短い距離に高出力を出せる脚質です。スプリンターと言っても、集団スプリントを得意とする選手やロングスプリントを得意とする選手などそれぞれで、そこもまた興奮ポイントです。
クライマーは山登りが得意な脚質です。クライマーの中にもなだらかな山が得意な選手から斜度20%といった激坂が得意な選手まで様々です。
ルーラーというのは一定の速度で長距離を走ることを得意とする脚質です。これだけだとなんか物足りない気もしますが、ある程度の出力を長時間に渡って出し続けることができるという脚質で、平坦区間の要所要所で大事な役割を果たす選手に多い脚質です。
パンチャーは丘陵もこなせるスプリンターという感じの脚質です。筋肉隆々でありながら多少の坂もゴリゴリのぼるという力強い走りが特徴的です。
オールラウンダーというのは、全てにおいてバランスの取れた力を発揮できる脚質です。ステージレースと呼ばれるようなレースの総合上位勢(GC: general crassification riderと言います)のほとんどがこの脚質です。バランスの取れたといっても様々で、この脚質のすごい選手はすごいクライマーよりすごくすごいです。超すごいです。
TTスペシャリストというのは、TT(タイムトライアル)が得意な脚質です。空気抵抗の少ない体制を維持することができ、高出力を一定時間出し続けることができます。
こういう選手それぞれの特徴(脚質)がレースを面白くします。見てるこちらも「この選手の脚質はこうだからきっとこういう作戦を取るだろう」「このチームはこういう脚質の選手でチームを組んでいるからこういう戦術だろう」などとワイワイガヤガヤやることで楽しむことができます。
余談ですが、いくら複数の特徴を持つこともありうると言っても、基本的にクライマーかつスプリンターという脚質の選手いません。しかし、近年、山も登れてスプリントもTTも強いというワウト・ファンアールト選手(ベルギー)がいまして、脚質ファンアールトと言われています。
脚質以外の特徴
選手の特徴は脚質だけではありません。他にもいろいろあります。例えば、ワンデーレースを得意とする選手もいれば、ステージレースを得意とする選手もいます。ワンデーレースが得意な選手は一回のレースで力を出し切れる選手で、ステージレースを得意とする選手は底しれぬ体力と回復力に優れた選手と言えるでしょう。
高所を得意とする選手、暑さ/寒さを得意とする選手、逃げにのるのが上手い選手、ダウンヒルを得意とする選手、雨を得意とする選手、石畳を走ることを得意とする選手...などなど、選手の特徴を知れば知るほど見てて楽しいです。
コースにも特徴がある
コースも一様ではありません。基本的に平坦な道のりが続く平坦コース、ちょっとした山々が織り込まれている丘陵コース、きつい山岳などが含まれている山岳コースなどがあります。
余談ですが、スロバキアにはペーター・サガンという大人気選手がいて、この選手向きのコースをサガン向きコースと言います。
選手には役割がある
すでに述べたようにサイクルロードレースはチームスポーツです。それぞれの選手にはそれぞれの役割があります。
まず、ステージレースので総合上位を目指すチームの場合は、総合上位を狙うエースがいて、他の選手はそのエースを助けるアシストという役割を担います。アシストはエースを囲むように走り、エースにトラブルが起きないように注意を払います。また、ドリンクや補給食をチームカーからもらってエースに渡すというお茶係もします。平坦ではルーラーの選手やTTスペシャリストが長時間風を受けながら引き続け、山ではクライマーの選手がエースの前でペースメイキングをします。
平坦ステージではエーススプリンターが大事になります。エースが足を温存できるように(足をためておけるように)アシストの選手は前で風を受けます。ゴール前では数名のアシスト選手がエースの前でペースメイキングと導線の確保を行い、エースが然るべきタイミングで然るべき動線でアタックできるようにします。これをリードアウトするというのですが、リードアウトが得意なリードアウトマンというのもいます。
他にも、相手チームがアタックを仕掛けてきたときにその後ろについていく(チェックする)という役割、ペースを上げ下げして他チームのエースを揺さぶる役割など、アシストの仕事はたくさんあります。このように、それぞれがそれぞの役割をこなして、チームのエースを一位にすることを目指すのです。
何が起こるかわからない
サイクルロードレースは、強い選手が必ず勝てるレースではありません。その時その時の状況に応じていくつもの可能性が生まれ、次に何が起こるのかの予測がつかないことが多々あります。昨日まで絶好調だったエースが急に調子を崩すこともありますし、落車、パンク、機材トラブルなど様々です。
ドラマがある
サイクルロードレースには熱い人間ドラマがあります。そもそも、上で述べたようにアシストというのはエースのために働くわけですから、自らの勝利というものはほぼありません。名脇役ならぬ名アシストと呼ばれる選手もいます。そういったアシスト選手がなにかのきっかけでぱっと輝いて優勝するなんてことがありますが、その時の感動といったらありません。アシストの献身的な働きというのはときに大変美しい人間ドラマを生みます。
Jsportsの実況解説がいいよ
サイクルロードレースは長時間にわたるので実況解説の話術が大事になります。回し者でもなんでもないですが、Jsportsのいわゆる居酒屋実況が大変心地よいのでおすすめです。個人的にもっともおすすめは栗村修さんですね。このチョイス、超ベタなんですけど。
他にも見どころはいっぱい...
なんですけど、これ以上書くととっちらかってまとまりがつかなくなりそうなので、このあたりで筆を置きたいと思います。
にわか知識ですみませんが、私の熱い気持ちさえ伝わればそれでヨシ!です。
この記事確認ッ!
ヨシ!