イングランドのサッカー界は、以下のフレーズを標語として掲げています
No Room For Racism(人種差別は受け入れない)
昨今、ヨーロッパのサッカー界では人種差別が大きな問題となっています
残念ながらイタリアサッカー界でも同じで、今シーズンだけでもいくつか騒動が起きました(詳細はコチラ→)*1*2*3*4
あくまでも個人的な所感ですが、イタリアで試合中の差別行為は応援の一種という考えがあり、根底には悪意のない差別行為は人種差別ではないという認識があると感じています
それを如実に表すのが、インテルのルカク選手に対する人種差別を巡る以下の騒動です
概要
先日行われたカリアリvsインテルの試合中、インテル所属のロメル・ルカク選手がカリアリのサポーターからモンキーチャント(サルの鳴き声を真似た掛け声をかけたり、サルの仕草を真似たジェスチャーを浴びせる黒人に対する人種差別)を受けました
同時期にヨーロッパ各国で人種差別が発生していたこともあって、ルカク選手はサッカー界全体でこの問題に立ち向かう必要がある、と声明を発表しました
それに対し、"Cluva Nordo(クルバ・ノルド)"というインテルのサポーター集団が「クルバ・ノルドからの手紙」というタイトルで以下のような反論を展開しました
クルバ・ノルドからの手紙(抜粋)
Ciao Romelu,
チャオ、ロメル
Ci spiace molto che tu abbia pensato che quanto accaduto a Cagliari sia stato razzismo.
先日カリアリ戦で起こったことを、君が人種差別だと思っていることについて、僕らは残念に思っているよ
In Italia usiamo certi “modi” solo per “aiutare la squadra” e cercare di rendere nervosi gli avversari non per razzismo ma per farli sbagliare.
イタリアでは、相手を苛立たせてミスを誘い、自分の応援するチームを"助ける"ために、こういった"応援"が行われるんだ
Non siamo razzisti allo stesso modo in cui non lo sono i tifosi del Cagliari.
僕らは差別主義者ではないし、それはカリアリのサポーターたちも同じだ
Devi capire che in tutti gli stadi italiani la gente tifa per le proprie squadre ma allo stesso tempo la gente è abituata a tifare contro gli avversari non per razzismo ma per “aiutare le proprie squadre”.
あくまで"応援"であって"差別"ではないし、イタリアのスタジアムでは日常茶飯事だと理解しないといけない
Quando dichiari che il razzismo è un problema che va combattuto in Italia, non fai altro che incentivare la repressione di tutti i tifosi inclusi i tuoi e contribuisci a sollevare un problema che qui non c’è o quantomeno non viene percepito come in altri stati.
「人種差別はイタリアで取り組むべき問題だ」なんて君が宣言すると、本当は存在しない問題がでっちあげられ、僕らを含む全てのサポーターの弾圧につながるだけなんだ
Ti preghiamo di aiutare a chiarire quello che realmente è il razzismo e che i tifosi italiani non sono razzisti.
だから何が本物の人種差別なのか、そして僕らイタリア人サポーターは差別主義者ではないということを、君にハッキリと宣言してほしいんだ
La lotta al VERO razzismo deve cominciare nelle scuole non negli stadi, i tifosi son solo tifosi e agiscono in modo differente allo stadio e nella vita reale.
"本物"の人種差別との戦いの舞台は学校で、スタジアムは関係ないんだ
僕らは単にチームを応援しているだけで、スタジアムと日々の生活は別物なんだ
Stai certo che quello che dicono o fanno a un giocatore di colore avversario non è quello che direbbero o farebbero nella vita reale.
スタジアムで起きる有色人選手に対する"言動"は、日常生活では起きないから安心してほしい
イタリア人の反応
「クルバ・ノルドからの手紙」には多くの非難が集中しました
しかし一方で、「これがイタリアサッカー界の現実だ」という反応も少なからずありました
事実、イタリアでは定期的に人種差別(特に黒人選手に対するモンキーチャント)が発生しています。当然そのたびに問題提起され、スタジアムの閉鎖など厳しい処分が科せられていますが、根本的な解決に至ってないのが現状です
私が受けた"人種差別"
私がイタリアに留学していたある日、住んでいたシェアハウスで記念撮影を行うことになりました
すると、シェアメイトの1人(イタリア人)が、両手で目尻を引っ張って目を細くするポーズをしながら、「みんなこのポーズで写真撮ろうぜ!」と言ってきたので、無知な私は何の気なしに同じポーズをとって写真撮影を行いました
後日、イタリアに長く住んでる日本人の友人にこの話をしたところ、
それ、アジア人が目の細いことを馬鹿にするジェスチャーだよ
と教えられました
帰宅後、シェアメイトに「あのポーズって差別行為って知ってた?」と聞いたところ、
ごめんごめん、知ってたけど冗談のつもりだったし、差別的な意図は全くなかったよ、気を悪くしたなら申し訳ない
と言われました
この、目を引っ張るポーズは差別表現として有名で、以前インテルに所属していた長友選手がゴールを決めた際に、熱狂的インテルファンの実況者がこのポーズをしたことでも知られます
こんなエピソードは可愛いものです。
なぜなら、シェアハウスで一緒に過ごしていた彼らは、本当に私と仲良くしてくれていて、そこになんら悪意がなかったことは明らかだからです。しかし、そうした善意あり、かつ理性的な人達の小さな無知は、反面とても怖いものだと思います。それがいつか大きな差別につながってしまってもおかしくありません
他にも、ベネチアに滞在していたときに、明らかに悪意ある差別にあったこともありました。それは、あるバーでビールを買ったときのことなのですが、バーテンダーは私にビール一本6ユーロ請求しました
その後、別のイタリア人の友人がそこに行くと、同じビールで4ユーロ請求されました
ベネチア出身のイタリア人は、同じ場所、同じビールで2ユーロ請求されました
明らかに、 外国人<イタリア人<ベネチア出身のイタリア人 という序列がそこには存在したのです。怒り心頭でこの話をイタリア人の友人にしましたが、一様に、「確かに絶対やってはいけないことだ、でもそれがベネチアの現実なんだよ」という反応をされました。これは大変悲しいことだと思います。諦めと無関心は、事態を良くすることは絶対ありません
相手が変えられないものを利用してはいけない
ということで、私が受けた差別の話は今は掘り下げる気は無いので話を戻します。私が言いたかったことは、特にサッカー界で、悪意のない差別行為は"本物の人種差別"ではない、という考えがまかり通ってしまっているような気がする、ということです。
しかし、どんな理由があろうとも、相手が変えられないもの(その最たるものは持って生まれた身体的特徴)を面白がったり、利用したりしてはいけません
ちょっと立ち止まって考えてみれば、ごく当たり前のことのような気がするのですが、その議論に話し手の「意図」を持ち込んだり、もっともらしい理由をつけて正当化したりすることが多々見られます。残念ながらこれが現実です
イタリアは差別主義者の国ではないですし、優しい人が多いのは身をもって感じています
だからこそ、自分がした行為が、誰かにとっての差別行為であると知ることができたのなら、それに対してもっともらしい言い訳をしたり言い逃れをするのではなく、もう一度自らの一挙手一投足を見つめ直してほしいと思います。今回のルカク選手の件でそんなことを思いました
そして、近い将来、こうした諸所の問題が発生しない安全なスタジアムに変わってほしい。いちサッカーファンとして切にそう願います
*1:ヴェローナ vs ミランの試合中、ミラン所属のケシエ選手に対してモンキーチャントが起きたまた、同じくミラン所属のドンナルンマ選手に対しては、出身地であるナポリを貶める差別発言があった
これらの騒動に対し、ヴェローナはTwitterの公式アカウントで「差別的なブーイング?ウチの熱狂的な応援を聞き間違えただけじゃない?」と開き直る発言をし大炎上したwww.gazzetta.it
*2:ヴェローナvsブレシアの試合で、ブレシア所属のバロテッリ選手がモンキーチャントを受けた
それに対しバロテッリ選手はプレーを止め、観客席に向かって思いっ切りボールを蹴りこんだwww.gazzetta.it
*3:ローマ所属のファン・ジェズス選手に対し、SNSで肌の色に関する差別的なメッセージが送られてきた
クラブは警察に通報し、加害者は今後一切ローマの試合を観戦することを禁じると発表したwww.repubblica.it
*4:地方クラブのペスカーラが人種差別に反対する運動への参加を表明したところ、Twitterであるファンが「そのクソみたいな活動支援をやめろ!さもないと今後チームを応援しないぞ」とツイートした
それに対しクラブは「わかった。君はもうこのクラブのサポーターではないよ」と毅然とした対応をした
https://sport.sky.it/calcio/serie-b/2019/10/15/pescara-razzismo-tifoso-twitter