- 第105回ジロ・デ・イタリアを、全ステージ(ほぼ)スタートからフィニッシュまで見たので簡単な感想を書いておきたい。
今年のジロ
- 総距離: 3,445.6km
- 獲得標高(どれだけ登るか): 50,580m
- ステージ全体としては、平坦、丘陵、山岳ステージがバランス良く配置されているが、平坦にも丘や山が入っていて、非常にタフなグランツールである。第3週目にいたっては一つのステージを除いて、残りは山だらけというステージ配置だった。
- タイムトライアルが26.6kmと短く、山が多いので、完全にクライマー向けのジロ。
ちなみに
- 最初の二ステージはjspoオンデマンドで見たけど、そこから先はGCNのイタリア語実況解説で見た。
- jspoが嫌いというわけではないが、方針が初心者にもわかりやすく、間口を広げるタイプの実況解説なので、慣れてくるとちょっと冗長でしんどいところがある。例えば、どこかで聞いたことがある視聴者質問を何度も取り上げたり。
- 時々レースに関係ないうちわネタで盛り上がったり、ウケ狙いの謎発言があったりするのも、個人的にはちょっと嫌。レースについての話をしているときはどの方も鋭い指摘をするので大好きなのだが、どうも面白みを足そうとしてレースと関係ない話が目につくようになったので、今回はGCNでも見られるということもあり、避けてしまった。
- イタリア語実況・解説の人たちは、もともとプロ選手でジロを走っていたり、プロトンで走っている選手と個人的につながっていたりしていて、情報量が圧倒的に違うので、見ごたえが違った。この点もGCNのイタリア語実況で見た理由。
- 以下の感想には、GCNイタリア実況・解説の受け売りが含まれます。
全体的な感想
- 満足度的には10点中7点という感じ。面白かったけどいくつか(結構大事な点で)残念な点もあった。イタリア実況・解説の人たちは8点評価だったけど、私の感想と同じようなことを言っていたので、素人の目からもプロの目からも同じように映ったところは多かったのだろうと思う。
- なによりも、早々にGCライダーの有力選手が脱落してしまったことがショーとしての魅力を損なってしまったように思う。途中棄権してしまったサイモン・イェーツ、ロメン・バルデ、ミゲル・アンヘル・ロペス、ジョアオ・アルメイダはもちろんのこと、ヒュー・カーシーやジュリオ・チッコーネといったライダーたちがGCライダーとして早期に脱落してしまったのは残念。カーシーは第2週目の終わりから3週目にかけて復活して総合9位まで順位を上げていたが。(ただしこの総合順位もちょっと、よくよく見ると不思議な順位である)
- 総合順位表の不思議な点は、上位3人を除き、ほとんど動きを生まなかった人たちが入っているという点。とりあえず最終局面には残っているけど、だからといって何かレースに動きを生むようなアタックを仕掛けたりしたということではない。単に「そこにいた」という印象。
- あと、総合中位勢が大逃げに乗って順位を一気に上げるというケースもかなり多かったので、結果としての総合順位表とライダーの強さのイメージがちょっと合わないところもあるのかもしれない。
- GCライダーがいなくなるということは、単に数名欠けるというだけではなく、欠けた分のチームが動かなくなるということも意味しており、その意味でもレースに動きがなくなって残念だった。
- これはイタリア実況・解説の人たちも散々言ってたことと重なるが、GC上位三人のヒンドレー、カラパス、ランダの脚質タイプが似すぎていて、お互いがお互いをマークする状態でジロが硬直状態になっていたことは否めない(イタリア実況・解説の人はこれをジロ・ブロッカート[止まったジロ]と言っていた)。TTに強いアルメイダがコロナで最終局面を前にしていなくなってしまったこともこれに拍車をかけたと思う。
各チームごとの感想
- 特にこれといって思い入れのあるチームがあるわけではないので、ざっとそれぞれのチームについて持った印象について書いていく。
AG2R CITROEN TEAM
- ごめんなさい、本当に記憶がない。
- 名前を見るとそれなりに強い選手もいるのだが、今回のジロは完全に脇役だったと思う。
- 唯一、ベンドラーメがステージ19で丘陵コースの逃げにのり、ゴール地点まで残っていたが、最終カーブを曲がりきれずステージ優勝ならず。それ以外はほとんど記憶に残っていない...
ALPECIN-FENIX
- 大成功のジロと言っていいのではないだろうか。ステージ3勝。
- 一個下のディビジョンであるプロチームだが、もういろんなところでいろんな人が言っているように、実力は完全にワールドチーム。UCIランキングも。来季からはアルペシン・ドゥクーニンクとしてワールドチームになる用意があるらしい。
- そしてなんと言ってもマチュー・ファンデルプール劇場である。第1ステージで勝ち、マリア・ローザを獲得した後、全部で7回逃げに乗ったらしい。しかも本人の脚質に合わない丘陵・山岳ステージでも逃げていたらしく、終始楽しんだもの勝ちというレース運びだった。強さも十分、エンターテイメント性も十分だった。この世代のスター選手として最高に輝いていたように思う。
- 唯一グランツールでの経験が少ないからか、ある意味でのクレバーさが足りず、勝てそうなレースをいくつか落としたのが玉に瑕ではあった。
- チームとしては逃げに乗ることが多かったが、その逃げで2勝したのだから、素晴らしい。
ASTANA QAZAQSTAN TEAM
- ニバリ、ニバリ、ニバリ。
- 今回のジロではニバリだけが輝いたチームだったと言える。ロペスは(ずっと前から抱えていたという)臀部の怪我で早々にリタイア。
- でもニバリはステージ後に「そんな話は聞いてなかったけど、そうだったんだね」と皮肉っていたらしい。
- ロペスがいれば、ニバリのステージ優勝もあったかもしれない。特に、第14ステージで、総合1位、2位の、ヒンドレーとカラパスと互角に走っていたのが、最も印象的だった。
- あと、輝くニバリの走りを観て、イタリア語実況・解説がめちゃくちゃ興奮した挙げ句、ニバリ〜〜〜!!と耳をつんざくうるささだったのもハイライト。
- そんなニバリは、出身地のメッシーナにゴールする第5ステージで今季限りの引退を発表。でも総合4位。引退必要ある?
BAHRAIN VICTORIOUS
- ランダが総合三位。ランダといえば、鋭い山岳アタックのイメージがあったが、今回はなかった。終始堅実な走りで、3位だった。3位と4位の間でタイム差が5分くらいついていたので、もっとチーム全体として攻撃的にいけばよいと観ながら思っていたが、結局最後まで堅実な走りを崩さなかった。
- 多分最後の方はランダは疲れてたと思う。最終日のTTは、完全に牙を抜かれたような走りをしていた。
- 若きクライマーのブイトラゴがステージ1勝。今後に大変期待がかかる選手である。
- チームとしては、ランダの総合とステージ優勝(しかも山岳と平坦で)の両方取りを目指していた感じだった。今回のジロでは、クイックステップよりずっとウルフパックぽい走りを終始見せていたように思う。
- ビルバオが思ったより伸びなかった印象がある。あとプールスがちょっと途中疲れてた感じがあった。
- しかしそれでも、チームの総合タイムで優勝しているので、みんな堅実に強かったことは間違いない。
BARDIANI CSF FAIZANÈ
- 逃げで数回最終局面まで残り、ステージ優勝までは後少しというシーンも多かった。
- ステージ優勝狙いだったのか、(ステージ優勝できないという意味で)無駄な逃げは一回もうっていなかったはず。プロチームは逃げに入るという暗黙の了解があるのだが、最近はUCIポイント制があるので、あまり無駄なことはしたくなかったのかもしれない。
BORA - HANSGROHE
- 正直、今回のジロで最も強いチームだったと思う。総合優勝のヒンドレーはもちろん、ケルデルマン、ブッフマン、ケムナ、アレオッティなどなどいろんな選手がいろんなところで目立っていた。
- チームとしての戦術も他のチームより一歩先に進んでいた。第14ステージでいい意味でレースを破壊し、第20ステージでは、完璧な前待ち作戦が決まっていた。
- サガンがいなくなってからあっという間に最強のGCチームになっていて、輝きが増している(私の中で)。
COFIDIS
- マルタン大作戦が観られたので満足。謎の山岳アタックもあり、イタリア語の実況解説も「不思議なフランス人ライダー」と言っていた。
- コンソンニがスプリントで頑張っていたが、チームとしては完全に埋もれていた。
DRONE HOPPER - ANDRONI GIOCATTOLI
- 逃げた距離が一番長いフーガ賞をバイスが、中間スプリント賞をタリアーニが獲得。典型的なプロチームの動きではあるが、その分きちんと得るものは得たというところだと思う。
- テスファシオンが一回逃げに乗って調子が良さそうだったが、落車で遅れてしまったのが残念。
EF EDUCATION - EASYPOST
- 基本的にはステージ優勝狙いの布陣で、戦略もそれ相応のものだった。
- 逃げ切りが決まった第18ステージで、逃げのメンバーの中で実績的には最もスプリント力があるコルトが、逃げ切り優勝を決められなかったのが悔やまれる。
- カイセドも山で逃げてたけど、ちょっといい逃げに乗れなかった。サイモン・カーの早期リタイアも残念。
- カーシーが総合でいい走りをするはずだったのだが、途中でバッド・デイをはさみ、脱落。それからは積極的に逃げにのって、あわやステージ優勝というところまで行ったりもしたが、結局は何もなし。最終順位は総合9位だったので書類上の業績は残せたとも言える。声がセクシー。
EOLO-KOMETA CYCLING TEAM
- ディエゴ・ローザがちょっと山岳賞争いで目立ってた。
- フォルトゥナートが総合で頑張る予定だったらしく、結果も、監督曰く「それ相応のもの」だったらしい。
- イタリア語解説・実況は最初からかなり期待していてずっと話題にあげていたが、最終的には「いなかった選手」にあげていた。
- 去年モンテ・ゾンコランのステージで逃げ切り勝利を挙げたことで期待だけが高まってしまったのかもしれないとも言われていた。
GROUPAMA - FDJ
- アルノ・デマールの完全復活!ステージ3勝!
- スプリントトレインが一番機能していたチームだったと思う。
INEOS GRENADIERS
- 言わずとしれた最強チーム。今回のジロはカラパスの総合優勝一点賭け。逃げにも一度も乗っていなかった。
- 個人的にも、カラパスが優勝すると思ってたくらい、個人の力もあり、チーム力もありという下馬評であった。
- 第20ステージでカラパスの足が止まってしまい、ヒンドレーから1:25の遅れをとってゴールした時点でチームとしてもジロは終了。
- あの時点で途中棄権してしまったリッチー・ポートがいれば、去年のベルナルを救ったマルティネスと同じ構図になったかもしれないので残念。
- ちなみに、ステージ20では、カラパスはジロ敗北が決定したショックのあまり一切インタビューを受けなかったそうで、その点をメディアに批判されていた。
- イタリア語実況・解説は、「辛さは分かるので責めることはできない。でもインタビューを受けることも仕事の一環だから、受けたほうが良かったね」という評価だった。
- カラパスは最終日のステージ21のTTが良かったので、ステージ20で遅れていなかったら優勝濃厚だった。
- イネオスはカラパスがマリア・ローザを着てから、ステージ優勝を完全に逃げに譲る走りをしていた(10分以上先行させてしまう)ことから、ヒンドレーが山岳ステージでステージ優勝を狙うためにスピードアップしてカラパスを置いていってしまうことを懸念していたのではないかと実況・解説では言わていた。
- 事実そうなったので、イネオスの戦略としては正しかったが、ボーラの戦略がそれを上回ったというところだろう。
INTERMARCHÉ - WANTY - GOBERT MATÉRIAUX
- ギルマイはもちろん、ヒルト、ポッツォヴィーヴォの三人が目立ちまくってた。ギルマイとヒルトはステージ優勝も。
- ポッツォヴィーヴォと言えば、そのお年が話題になるのだが、本人は若手だと思っているらしく、歳について聞かれるのを嫌がるらしい。しかしやっぱり言いたくなるのは、その歳にして総合8位はすごすぎるということである。
- ギルマイがステージ優勝後のシャンパンセレモニーで、コルクが目に当たりそれが理由でリタイアしたのがもったいなすぎた。
- ちなみにその後のシャンパンセレモニーでは同じ事故を防ぐために、コルクはとった状態でシャンパンが提供されるようになっていた。
ISRAEL ISRAEL - PREMIER TECH
- 完全にスプリンターのニッツォーロシフト。そのニッツォーロが勝てなかったのでお察し案件になってしまった。
- 逃げのスペシャリストのデマルキが終盤頑張っていたが、一度も逃げに乗れず。その時点でチームとしては得るものなくジロを去るということが確定した。
LOTTO SOUDAL
- カレブ・ユアンによるステージ狙い編成。だったが、ユアンの調子が上がらず、一勝もできず。第1ステージでの落車の影響もあったのかもしれない。
- あと全体的にスプリントトレインが機能しておらず、ユアンが一人でスプリントをしていることが多かった。
- 逃げ職人のデヘントが、逃げ切りでステージ1勝。10年ぶりだかのジロでのステージ2勝目。ロットはこの一勝に救われた。
MOVISTAR TEAM
- プロトン最年長のバルベルデが総合で11位。それだけ...かな。
- 山岳ステージで勝利を期待されていたイバン・ソーサが完全に消えていた。
QUICK-STEP ALPHA VINYL TEAM
- カベンディッシュが第3ステージで優勝。それ以外は特に。
- カベンディッシュが第3ステージ後に、「僕はもはや最強じゃないけど、それでも勝ち方を知っている」といったのが印象的だった。
- カベンディッシュが去年のツールのように勝ちを量産するかもと思われたが、リードアウト役のモルコフが熱で途中棄権してしまったこともあり、その後はチームとしても輝くことはなかった。第19ステージのシュミットがちょっと惜しかったくらい。
TEAM DSM
- 調子が良さそうだったGCライダーのバルデが胃腸のトラブルでいなくなってしまったのが痛すぎた。
- ダイネーゼがスプリントステージで優勝したので、なんとか救われたといったところか。
- そのダイネーゼが勝ったステージ裏のビデオを見たが、監督が、「俺達はGCに集中するから!GCだから!スプリントは行けたら行くだけ!GC!GC!」と連呼していたことが、今となってはなんとも虚しく響く。
- バルデがいなくなってからは、主にアレンスマンがハミルトンと一緒に気をはいたが、ステージは獲れず。
- バルデがいたらというタラレバにすがりたくなる結果であった。
TEAM JUMBO - VISMA
- 現三強の一角を担うチームなので、その期待からしたら残念な結果となってしまったと言わざるを得ない。
- 第2ステージのTTでは明らかにデュムランでステージ優勝を狙いに来ていたが、サイモン・イエーツとマチューの前に敗北。
- デュムランは、その後のステージで、後にマリア・アッズーラ(山岳ジャージ)を獲得するボーマンをアシストした後、特に輝くことなく、背中の痛みが原因で棄権。
- 第2ステージ後は落ち込んだりもしたけど、その後は楽しそうに走っていたのが微笑ましかった。
- チームとしては、途中から完全にボーマンのマリア・アッズーラ獲得シフト。そのボーマンは見事それを獲得したのみならずステージも2勝。登坂力もスプリント力もあることを見せつけた。
- その他、アッフィニの献身的なサポートや逃げ集団での圧倒的な牽引も良かった。その他、エンコーンをはじめ、それぞれがそれなりに見せ場を作っていたが、最強チームのユンボに求められるのはそういうことではないのだ、という思いが抜けない。
TREK - SEGAFREDO
- 主人公はユアン・ペドロ・ロペス。マリア・ローザを長期間着続けることに成功した。
- プロトンの中で、ベテラン選手に敬意を払いつつ誰とでも仲良く話すシーンが何度もテレビカメラに抜かれており、イタリア語解説の人たちもべた褒めしていた。
- 漫画化するなら彼が主人公でいいと思う。最終的には、最強のヤングイアダーのアルメイダがいなくなったこともあり、マリア・ビアンカ(ヤングライダー賞)を獲得。
- もう一人の主人公として挙げられるのがジュリオ・チッコーネ。イタリア期待の若手という言葉では尽くせないほど期待されている(そして期待されすぎている)ライダー。ここ2年ほど思うように活躍できておらず、苦しんでいた。
- しかし、ついに今ジロで一勝!ゴールラインを抜ける前にサングラスを観客席に投げ入れるのがトレードマークらしい。
- チッコーネは期待されすぎていることを示すかのように、イタリア語実況・解説からは厳しい言葉がかけ続けられていた。以下抜粋。
- (第2ステージのTTでサイモン・イエーツから1分近く遅れ、)「チッコ、よく聞け。GCはモレマに任せて、君はステージ狙いに切り替えなさい」
- (優勝したステージで後続を突き放している際に)「ジュリオ、焦るな、後ろを振り返るな。前だけ見てろ。」
UAE TEAM EMIRATES
- イネオス・ユンボとともに、現三強の一角を担うチーム。今ジロでは、ステージ優勝(山岳もスプリントも)とGC上位を両方狙いった編成であった。
- しかし結果は、GCライダーのアルメイダがコロナで棄権。スプリントではガビリアが、機材トラブルもあり勝ちきれず、山岳でもフォルモロ、ルイコスタが勝ちきれず。
- ガビリアは最後のスプリントで変速が変わらなかったバイクを叩きつけるようにして、"Che vici di merda! (このクソバイクめ)"と言ってしまい、それがメディアに拾われ大ニュースになっていた。大目玉を食らったことだろうと思う。
- コービのステージ20での逃げ切り勝利が唯一の戦果となった。UAEがほしかったのは、CovidではなくCovi(コービ)だったとネットニュースでは書かれていた。
- 二兎どころか三兎を追う戦術で、必要な時にアルメイダの近くにだれもアシストがいないという状況も多々あった。イタリア語解説・実況も不思議がっていた。
- チームメイトで、現ロードレース界最強のポガチャルのときには同じ戦略はとらないから、アルメイダには同情を禁じえない。
TEAM BIKEEXCHANGE - JAYCO
サイモン・イェーツのジロへの旅
- サイモン・イェーツのGC一択のチーム編成。クライマーであるサイモン向きのコースであり、今ジロは総合優勝を間違いなく目指していた。
- 平坦では、何でもできるクリス・ユールイエンセン、マイケル・ヘップバーン、TTスペシャリストのローソン・クラドックとマッテオ・ソブレロ、登れるルーラーのカラム・スコットソンが、登坂では、ルーカス・ハミルトン、ダミアン・ホーゾンがアシストをするという布陣。
- サイモン自身もここ数年で最強のチーム編成と自信をメディアに語っていた。
- Journey to Giroというサイモンドキュメンタリー動画を3つも事前に用意しており、勝利した時用のメディア展開への念の入れ用がすごかった。
- 「とにかくベストコンディションでジロに臨みたいんだ。それで誰かが僕より速かったらそれまで。それはそれでいいんだ」というサイモンは最高に輝いて見えた。今年の優勝は間違いなしだと思った。
- サイモンは、パリ・ニースで総合2位。しかも第8ステージでは、あの最強ログリッチを突き放す登坂を見せ、今ジロでも優勝候補最右翼として期待されていた。
- チームとしては、例年ツール・オブ・ジ・アルプスをジロの調整レースとしていたが、今年はスペインのブエルタ・ア・アストゥリアスを調整レースとして採用。3ステージ中2ステージで優勝した。しかし、突然の暑さで真ん中の第2ステージでトップから11分遅れでゴールしたため、総合優勝はならなかった。
- サイモンは温度差に弱いらしく、そのせいだったようだが、ホワイト監督は「これで暑さ対策は万全さ。心配無用」と言い切った。
- サイモンのジロの出だしは最高に良かった。何よりも、第2ステージのTTでまさかのTTスペシャリストたちを上回っての優勝。GC勢の中では一つ頭が抜き出た結果を序盤に出した。
- 勝利後のインタビューで、スポンサーのジャイアントとカデックスに感謝の念を述べており、チームとしてのパートナー選びがうまくいったことということが分かる。
- 順調な滑り出しを見せたがしかし、第4ステージの序盤で落車に巻き込まれる。右膝を痛める。
- ステージ後に、ドクターの検査を受けた結果、打撲と切り傷であり大したことはないと判断された。
- その後サイモンはインタビューで落車を振り返り、「前で落車をしているライダーがいたからブレーキをかけてきちんと止まったんだ。でも後ろのライダーが突っ込んできて、右膝を強打してしまった。プロトンにはブレーキの使い方を知らない人がいるようだね」と皮肉っていた。
- その後のレースも順調に走り続けたため、サイモンの膝問題は解決したかと思ったが、第9ステージの最終山岳の序盤から遅れはじめ、最終的には11分遅れ、GC戦線から脱落。
- レース後のサイモンは、「隠してたんだけど膝が痛くてね。あと、今日は暑くて苦しかった」と話した。優勝候補のあっけない幕引きだった。
- 絶対的エースを失ったバイクエクスチェンジ・ジャイコはステージ優勝に切り替える。
- そのため、ステージ10ではサイモンのみならずアシスト陣がハチャメチャなアタックを繰り返すようになり、イタリア語実況・解説からも「意味がよくわからない」と苦言を呈される始末となる。
- しかし、それらはきっと、彼らなりの元気の出し方だったのだと思う。サイモンはジロに全てを賭けていただけに大変落ち込んだことかと思うが、そこで諦めずに戦い続ける姿勢を見せることで、自身のマインドセットを変えようとしたのだろう。
- その結果が身を結んだのか、サイモンが今回のジロで最もエンターテイメント性があったとされる第14ステージで優勝。バイクエクスチェンジ・ジャイコはチームとしても、サイモン個人としてもこの一勝に救われたと言えよう。
- サイモン自身は自分がGCを戦っていないことに後悔の念が強かったらしく、ステージ優勝後のインタビューでも「このステージを貶めるつもりはないが、僕はジロを勝つために来ている。この勝利はその穴埋めにはならない。今までステージでは5勝したことがあって、それにもう一つ加わっただけのことさ」と語っている。
- サイモンの第14ステージでの最終アタックは他のヒンドレーやカラパスを完全に置き去りにするものであり、彼がGCとして残っていたら、ショーとしてのジロもきっともっと面白くなっていただろうと思うだけに、彼が早々にGC戦線から脱落したことは残念である。
- ちなみに、第14ステージも大変な暑さの中で行われたレースであり、イタリア語解説は、「第9ステージでの11分遅れは、膝の問題より暑さの問題なのではないか」と言われていた。私もそう思った。
- ちなみにサイモン自身は、「第14ステージの暑さは乾燥した暑さで、第9ステージの暑さは湿った暑さだった。また、第14ステージは周回コースだったので何度も給水を受けることができ、体を冷やすことができた」と語っている。
- GCを狙うべき力のあるライダーがステージ優勝を狙いに来るのだから、その後もステージ優勝最右翼として挙げられ続けたサイモンであったが、その後膝の痛みが悪化したとして途中棄権。彼のjourneyはこうして幕を閉じることとなった。
- ホワイト監督は「サイモンの膝の調子は100%ではない。それがゆえに、これからのサイモンはもっと怖い存在になるよ」と誇示していたが、もっと怖い存在になることなくジロを去ってしまった。
TTチームとしての覚醒
- バイクエクスチェンジ・ジャイコは、TTが強いチームとしては知られていなかった。それが、今ジロではその多くがTTで好成績を残し、一気にTTのチームとしての強さを見せつけた。
- ソブレロは、最終ステージのTTで2位のアレンスマンに22秒差をつけての圧勝。第2ステージでのサイモンの勝利とあわせてTTをチームで両獲りという結果を叩き出した。
- この背後には、マルコ・ピノッティによるTT指導と、スポンサーのジャイアント・カデックスの献身的な協力体制があったと、サイモン、ソブレロ自身が語っている。サイモンとソブレロは勝利後のインタビューで、ジャイアントとカデックスを名指しで挙げており、スポンサーはご満悦だろう。
- 去年チームとして結果が出なかったのは、チームバイクのビアンキのせいでもあったのかもしれない。しかしこれは単なる憶測である。
ルーカス・ハミルトンへの期待
- ハミルトンはGCライダーとして期待されているが、ここ数年思ったような成長ができていない。
- 今ジロでは最終的に13位だったが、クライマーながら、山岳ステージで最終局面に残ることが一回もなかった。今後の登坂力の成長にまずは期待したい。
最後に
- 特に思い入れのあるチームとか選手とかはいないので淡白な書き方になってしまったところが多いように思う。
- バイクエクスチェンジとサイモンについてたくさん書いているように思われるかもしれないが、気のせいである。
- 色々書いたけど、やっぱりジロは面白いという感想に尽きる。飽きっぽい私が全ステージほぼ最初から最後まで観たというのがその何よりの証拠である。
- 来年こそ、サイモンとバイクエクスチェンジの活躍を楽しみにしている。