私は「ジョジョの奇妙な冒険」、通称ジョジョという漫画が大好きです。この漫画の魅力の1つにキャラの個性が強いことが挙げられます。
パパウパウパウという擬音と共にワインを口から吐き出すおじさんや、お調子者で電信柱みたいな髪型のフランス人、モナ・リザの手を見て勃○しちゃうラスボスなど、デタラメ人間の万国ビックリショーです。
そんな個性豊かな登場人物の中で、ひときわ輝く圧倒的な変態性個性をもつのが、イタリアを舞台とした第5部に登場するメローネです。*1
彼がどれほど変態魅力的かというと、
・若い女性が1人でいる部屋へ勝手に入り、唐突に個人情報を質問する
・女性が答えずにいるとカバンを勝手に漁り、持ち物から年齢を確認し
すごく…ベリッシモ(とても)いい年齢だ…
と興奮する
・激高した女性に平手打ちを受け
スゴくいい!いいビンタだ!手首のスナップといい腰の入れ方といい、こういう元気なビンタを繰り出せるなら、君の健康状態は間違いなく『良好』だ!
と絶賛しながら手の平を舐め、指の味から血液型を推測する
・さらに
見たところタバコを吸えるようだし 今お酒もやってるな ドラッグはやってるかい?麻薬やってるならもっと君は最高にディ・モールト(非常に)いいんだがなああ
とヒートアップし、しまいには好きなキスの仕方などを尋ねる
という行動を本編で見せております。
はい、変態ですね。お巡りさんこいつですッ!!!
さて、そんなメローネには、ジョジョファンから愛される、以下のような名言があります。
ディ・モールト(非常に) 良いぞッ!
単純でありながらイタリア語っぽさがよく出ており、覚えやすくて言いやすい。これぞ「ジョジョ」というわかりやすさと変態度合いの伝わりやすさが、ファンがディ・モールト愛してやまない理由です。
さて、このメローネの名言の良いぞッ!までをイタリア語に変換すると、ディ・モールト ベーネ!(Di molto bene!) となります。実はこのディ・モールト ベーネ!というのはイタリア語としてはちょっとおかしいということでディ・モールト有名です*2。
何がおかしいのかというと、ディ・モールトのディがおかしいのです。ディ (di) は英語でいうと of に当たります。モールトはveryに当たり、ベーネはgoodです。of very good! というのがおかしいように、ディ・モールト ベーネというのもおかしくなります。
でも、di molto の di は最早 of という意味を失っていて、dimoltoで1つの単語として「非常に」という意味になっているのではないのか、という説もあります。今しがた私が考えた説です。すごく…ベリッシモ(とても)いい考察だ…!
そして実際にTreccani(トレッカーニ)というイタリア語の辞書で調べてみると、dimoltoで、diとmoltoがくっついた形が先に出てきます。
それが スゴク 最高にいいッ!見たところ形容詞(または副詞)だし 今も掲載されてるな 例文はあるかい?例文載ってるならもっと君は最高にディ・モールト(非常に)いいんだがなああ
失礼、取り乱しました。
さらによく見てみると、トスカーナ地方でよく使われるとも書いてあります。つまり、ディ・モールトは方言なのです。
かの有名な小学館の伊和中辞典で調べてみても、やはり「トスカーナ」という注釈ができます。トスカーナでは、「非常に」という意味でディ・モールトを使うようです。しかもなんとこちらではご丁寧に例文も載っています。
È di molto bella
エ ディ モールト ベッラ
彼女は非常に美人だ
スゴくいい!いい例文だ!初級レベルの単語といい実用性といい、こういう元気な例文を繰り出せるなら、この説の可能性は間違いなく『良好』だ!
失礼、また取り乱してしまいました。
例文まで載っているのだから、ワンチャンイタリア人も分かってくれるのではないかと思って、ディ・モールト ベーネ!と言ってみたら、「はい?ディいらなくない?」と言われました。「いやいや、辞書に例文もあるから」と辞書を見せたりもしましたが、どうやら違和感があるそうです。ディ・モールトはディ・モールト違和感があるらしいです。イタリア人にディ・モールト ベーネと言ったら、モールト ベーネならいいよ、というジョジョ好きにとっては踏み絵のごとき修正を受けました。
ヤバイぜ…この考察の欠点はイタリア人の支持を100%受けない事だ…
しかしよォ~~~~、メローネが登場するのは、主人公たちがナポリからローマへと北上する道中だ。メローネは、ナポリからトスカーナ地方へと里帰りする際についでに主人公たちを襲ったんじゃあねえのかああ~~~~~~っ!?ってことはだ...トスカーナ地方出身のメローネが使うディ・モールトは正しいってことに、なるんじゃないか...?なあ~?イタリア語の先生よォォォォォ.*3
もう一つ付け加えさせてもらうと、アクセントの位置が素晴らしい。モルト (molto)は o の位置に強勢が置かれますが、実際の発音はモルトにようにあまり日本語表記で長音記号をつかうほどにはなりません。しかし、強調したいときには、そうまさに、ディ・モールトのように、モールトと伸ばして発音します。つまり、メローネのディ・モールトはイタリア語の表現に忠実です*4
そしてそしてさらに言うと、メローネは興奮すると、ディ・モールト、ディ・モールトと反復するわけですが、これもディ・モールトイタリア語に忠実です。
ああっ!!!!ディ・モールト ディ・モールト (非常に非常に)良いぞッ!良く考察してるぞッ!
さて、それではイタリア語版のジョジョで「ディ・モールト」はどう表現されているかというと、ベーネ (bene) の絶対最上級のベニッシモ (benissimo) になっているようです。
確かに、ディ・モールト ベーネは「非常に良いぞッ!」という意味なので、メローネの言葉を的確に訳すとこうなるというのは分かります。わかりますが、ディ・モールトそうじゃない!そうじゃないんだッ!*5*6
メローネがベニッシモとか言ってもディ・モールト意味がないです。イタリア語版でもディ・モールトと言ってほしかったです。しかし、直されたということは、ネイティブチェックを通らなかったということです...
あの「ネイティブによるイタリア語チェック」ッ!
おれの「ディ・モールト」の考察を
ひいいいいいいいいいッ!
というわけで、メローネの名言「ディ・モールト」は、方言として存在するがイタリア語としてはディ・モールトおかしいみたいです...
最後の……考察…メ…ッセージ……で…す…これが…せい…いっぱい…です
読者…さん 受け取って…ください…
伝わって……… ください……
(おまけ)
他にもジョジョに関する記事を書いていますので、よろしければこちらもどうぞ。
*1:彼の名前の意味についてはコチラをご覧ください
*2:
*3:bella (美しい) のような形容詞とは使われることは辞書から明らかですが、本当にディ・モールト ベーネ (di molto bene) のように間投詞の「良いぞッ」と一緒に使われるのかは要検証ですね。ジョジョ好きとしては、背後にかなりのイタリア取材があったのではないかと推察されるので、トスカーナでは実際に使われているにディ・モールトかけたい。
*4:ただ、ディとモールとの間に中黒はいりませんが。
*5:ちなみに、ベニッシモ (benissimo) と モルト ベーネ (molto bene) は何が違うかかというと、ベニッシモのほうがより強い「良いぞッ」だそうです。
*6:さらにちなみに、beneには比較級のメッリョ (meglio) があり、意味的にはモルト ベーネとメッリョは近いそうですが、メッリョは何かと比べているのに対し、モルト ベーネは単に「良いぞッ」と言うときに使います。